仙台高等裁判所 昭和49年(ネ)290号 判決 1976年2月04日
控訴人
清野護
右訴訟代理人
勅使河原安夫
外二名
被控訴人
宮野信吉
右訴訟代理人
稲村良平
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を次のとおり、変更する。被控訴人に対し金一、七五七、九三六円およびこれに対する昭和四八年六月二八日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。控訴人が被控訴人に賃貸中の原判決物件目録記載の土地の賃料は、昭和四八年六月一二日から一ケ月金二三三、七二〇円であることを確認する。訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
当事者の事実上の主張および証拠関係は、左記のとおり当審に証拠が提出されたほかは原判決の事実摘示欄記載のとおりであるからこれを引用する。
(証拠)<略>
理由
一当裁判所も、控訴人の本件請求は、原判決が認容した限度において理由があり、その余は理由がないものと認定、判断するが、その理由は、原判決の理由中四の(三)、(四)を左記二、三のとおりに書きあらためるほか原判決が理由中で判示するところと同一であるからこれをここに引用する(なお原判決八枚目裏一一行目の「民事訴訟法」の下に「八九条、」と挿入する)。
二本件において鑑定人畠山正が算出した地代額は、いわゆる利廻り方式によつている。すなわち、同鑑定人は、原判決物件目録記載の本件土地について、まず、地価公示価格、相続税財産評価基準、固定資産税評価額および路線価を参考として更地価格を決定したうえ、借地権の割合を常識的に更地価格の五〇%とみて右金額を更地価格から控除したものを地代算出の元本価格とし、それに期待利回り額を乗じたものに公祖公課や管理費用を加算して賃料額を算出しているのである。右の鑑定は、その方式自体から明らかなように、控訴人と被控訴人との本件土地の賃貸借契約において従前の地代が決定されてきた経緯やその地代額、また被控訴人の本件土地の利用状況など、本件土地の賃貸借契約の継続関係から生じてきた個別的な地代決定の要因については触れられていないから、具体的な地代額の決定に際しては、これらの要因をも考慮して鑑定の結果を修正することが、衡平の見地から当然であるといわなければならない。
三ところで、近年における諸物価の高騰の割合を消費者物価指数によつて見ると、住居費については、昭和四五年を一〇〇とした場合、昭和四六年一〇四・八、四七年一〇九・一、四八年一二〇・〇であり、前年に比してそれぞれ4.8%、4.1%、9.9%と高くなつていることが明らかであり、六大都市をのぞく市街地のうちの商業地の価格指数は、昭和三〇年を一〇〇とした場合昭和四五年一三四五、四六年一五四〇、四七年一七〇九、四八年二〇六八であり、前年に比してそれぞれ一四%、10.9%、二一%の割合で高騰していることが一応明らかである(総理府統計局調)。そして<証拠>によると、本件土地の賃貸借契約における地代を決定するために考慮されなければならない事情として次のような事実があることが認められる。すなわち、被控訴人が本件土地について支払つてきた地代は、昭和三六年と昭和四二年に、それぞれ当時の所有者である株式会社丸玉商店との間において仙台簡易裁判所の調停手続を経て定められた月坪当一五〇円、同じく月坪当四五〇円の割合によつたものであり、右金額はさらに昭和四六年四月一日から増額されて坪当月額五五〇円となつているなど、従来から物価の高騰等の理由により適宜再考の合意によつて地代が改訂されてきた。しかし、本件土地の賃貸借契約については増改築禁止の特約があり、控訴人も被控訴人の増築の申入れを拒否しているために、被控訴人は本件土地上に戦後まもなくたてた木造トタン葺の平家建建物を所有して家業である米穀販売業等を営むとともに一部を二名に賃貸して合計金五万円の賃料を得ているに過ぎず、地価の高騰の割合には賃貸借の効率のある使用ができない状態に甘んじている。本件土地の近隣には、大手建設業者が坪当月額一五〇〇円という地代で賃借し自らの仙台支店等の敷地として使用している例もあるが、従前から賃借使用している賃借人のなかには、坪当月額五〇〇円、四九〇円というような低額な地代を支払つている例も散見される。以上のような事実が認められるのであり、この認定を左右するに足る証拠はない。
以上のような本件証拠調に顕われた諸事情を斟酌勘案すると、本件土地の地代額は、公祖公課の増加や土地の価格の高騰により幾分増額する必要が認められるとしても、その額は昭和四七年九月一日現在においては更地価格の約一%にあたる月額六〇、〇〇〇円(坪当月額六四五円)、昭和四八年六月一二日現在においては同じく月額七五、一七五円(坪当月額八〇八円)と定めるのが、消費者物価指数や商業地価格指数の動向にも近似し、従来の地代の額との衡平を保つうえでも相当であると判断する。右の金額を超えて控訴人の請求を認めるに足る証拠はない。
四以上の次第で、控訴人の本件請求は原判決が認容した限度において理由があり、その余は理由がないから本件控訴は失当として棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(石井義彦 守屋克彦)(石川良雄は転補されたため署名押印できない)